概要

前回 (今年4月) の SanFrancisco までは、Design Summit (開発者向け) と Conference (事業者及びユーザ向け) のセッションが別々で開催されていたが、今回より Summit という名称で同時に開催されることになった。

初日の朝に会場である San Diego Manchester Grand Hyatt に着いて驚いたことには、Kick-Off セッションの開催時刻間際になってもレジストレーションに長蛇の列が出来ていたことである。

結局、Kick-Off セッション後にレジストレーションを受け付けるという対応となり、最初から OpenStack の勢いを感じ

させられることになった。 なお、今回の Summit への参加者数については、前回比 400 名増の約 1,400 名ということであった。

以下にOpenStack の動向と所感について、簡単にレポートする。

OpenStack の動向と所感

前回からの大きな進捗としては、まず正式に The OpenStack Foundation が立ち上がったことである。 プラチナメンバーである IBM社、RedHat社、HP社、Rackspace社、AT&T社、Canonical社、Nebula社、SUSE の 8 社がボードに名を連ねており、その他にゴールドメンバーの 13 社のうち、8 社がボードに選出されている。
日本からは唯一、NEC さんがゴールドメンバーとなっている。
そうそうたる顔触れが Foundation に参画した事で、本格的に OpenStack に対する支援体制が整ったといえる。

また、資金面においても The Linux Foundation に次ぐ OSS の Foundation となった様だ。因みに、3位の Mozzila Foundation とは資金力に3倍の開きがあり、このことからも OpenStack の支援基盤の強さが窺い知れる。

開発コミュニティに関しては、開発者数が約 550 名、参画企業社数が約 190 社にも上り、開発コミュニティとして著しく成長している。
今回の Summit に先立ってリリースされた Folsom バージョンでは、開発コード行数は55 万行にも上り、また、ダウンロード数も 30 万を記録したとのことであった。因みに、他のクラウド基盤ソフトの開発者数の比較では、CloudStack や Eucalyptus よりも多数であるとの報告があり、このことからも OpenStack の OSS としての勢いが感じられる。

ユーザサイドに目を向けると、世界 38ヶ国にユーザ会が設立されており、個人メンバーは、約 5,600 名、組織メンバーは 850 と報告があった。
今回の Summit においても Cisco WebEx や eBay での OpenStack 採用事例に始まり、様々な事例の報告があり、OpenStack がクラウド市場において、Early Adopters のフェーズから本格的に Take-Off しようとしている機運を感じた。

今回、 Mirantis社に代表される OpenStack を専門にした SI ベンダーの活躍が目を引いた。 Cisco WebEx の OpenStack 導入には、同社が深く関与している。

OpenStack は、Nova、Swift、Quantum 等に代表される 7 つのコアコンポーネントのソフトが疎結合で連携するソフトであることから、一つのコンポーネントのみ (例えば、KT は Swift のみを採用)、若しくは、幾つかのコンポーネント (Cisco WebEx は、Nova、Swift および Glance を採用) を組み合わせての導入事例が多い。
SI ベンダーにとっては、他のクラウド基盤ソフトに比し、ビジネスチャンスが多くなるのではないかと予感する。

RedHat社による OpenStack ディストリビューションのリリースは、OpenStack がエンタープライズ市場においても十分に通用すると判断した証左だと言えるが、一方で、Cloudscaling社や PistonCloudComputing社といったスタートアップのディストリビュータにとっては、大きな脅威になると思われる。
しかしながら、デプロイメントが難しいと言われる OpenStack にとって、ディストリビュータの本家である RedHat社がディストリビューションビジネスに本格参入することは、今後、エンタープライズ市場への拡がりが大きく期待されるところである。

最後に、スタートして 3 年目の開発コミュニティとしては、非常に順調に成長しているといえる。 特に Rackspace 社から組織的に独立し、The OpenStack Foundation というニュートラルなFoundation が正式に立ち上がったことは、大きなステップだといえる。

その一方、Linux の様な OSS として、更に成功していくためには、オープン性、独立性、IP 使用の自由度といった中立性や活気ある開発コミュニティをどのように維持していけるかが鍵となるだろう。今後も OpenStack の動向に注目していきたい。